2005/12/26

Hanako世代シリーズ漫画編(8)

★のだめカンタービレ(2001)

のだめと千秋 

束縛しないゆるやかな関係
 

 「むっきゃー」「ぎゃっぼー」――意味不明な奇声を発し、
清潔できれいなどの社会規範からも大きく逸脱した
のだめこと野田恵。「オレさま」千秋真一とともに、
多くの支持を得て現在、独自路線をばく進している。

 落ちこぼれのピアニストの卵、のだめが、同じ音大の
プリンスで指揮者を夢見る千秋先輩と出会い、互いに影響し
あって成長していく。クラシックと漫画の垣根をとりはずす
など、人気が広がりを見せているのは言うまでもない。

 カップラーメンやお弁当の食べかすなど、ゴミが溢れ
かえる中、グランドピアノをジャージ姿で弾いていた眠れる
天才のだめと、飛行機恐怖症で、音楽家には必須な海外留学
ができないでいた千秋。

 そんな衝撃的な出会いを果たした、のだめが、21世紀に
現れた新しいヒロインなら、千秋もつっこみどころ満載
の設定だ。スキを見せなかった70年代のプリンスとは全然、
違う。2人の関係と距離感は70年代と
違ってイマドキなのだ。

 2人はピアニストと指揮者という互いの夢を持ち、
ともに同じ音楽の道を歩んでいる。しかし、束縛しあった
り、妥協したりすることなく、それぞれ、自分のペースで
歩を進めていく。

 たとえば、千秋が初めて指揮者コンクールに臨んだとき
のだめは自分のオタク趣味を優先させてアニメフェスティ
バルに行ってしまう。

 千秋も、オレ様でありながら家事全般でのだめをフォロー
し、のだめがコンクールに失敗して故郷にひきこもると、
九州の実家にまで連れに行く。互いの存在がいい影響を
及ぼしていることを自覚しているのだ。

 2005年6月、9年間の連載を終えた津田雅美の「彼氏彼女の
事情」でも、宮沢雪野と有馬総一郎との関係は対等だ。
 
 この作品では、2人の高校入学での出会いから卒業するまで
を、個性豊かな周囲の友人、家族それぞれの「事情」
とともに重層的に描いた。物語には、「ありのままの自分」、
児童虐待や心の闇、人生の成功と青春の夢と挫折など、
重いテーマが何世代にもわたる一族の歴史として、
時に主人公を変えながら進み、
連載当初、ラブコメ路線から想像できなかった
スケールで展開した。

 物語の終末、首席争いを続けていた優等生の雪野と
総一郎は、どちらも大学には進まない。医師志望の雪野は
総一郎との間にできた子どもを生むために主婦となり、
総一郎は刑事になるべく警察学校へ進むためだ。
雪野は出産後、医大進学を目指す。

 16年後、雪野は3人の子どもを抱えた医師となって
おり、総一郎は刑事となって共に第一線で働いている。
子育てをサポートするのは、隣に住む総一郎の親友で雪野
ともごく親しい、浅葉秀明というオトコである。

 この大長編を2人はこう言って締める。
 「せっかくの人生 味わい尽くさなくちゃ」
「『ああ面白かった 疲れた――』って言って死ぬのが夢なんだ」
「そうだね 人生本当におもしろくなるのはこれからだよ」
 
 均等法施行から20年近くたった今、70年代と違って
オトコとオンナは、だれかのため、何かのために何かを犠牲に
する時代ではなくなった。オトコが家事や子育てするのも
珍しくない。
 
 前出の「はいからさんが通る」の作者大和和紀が現在、
連載するのは、メアリー・ポピンズのような格好をした
男性シッターが子育て中の母子の悩みを解決してくれる
物語だ。

 漫画で描かれるオトコとオンナの関係性も、確実に
変わってきている。深まった「溝」は今後、どうなっていく
のだろうか。

読売ウイークリー編集部 笠間亜紀子

(了)
 
                                

2005/12/23

Hanako世代シリーズ漫画編(7)

★バナナブレッドのプティング(77)

衣良と御茶屋峠

どんな状況でも受容する 

 思春期の少女たちの揺れる繊細な心を描きて
人気だった大島弓子。その作品の中からは、今回、印象的な
セリフが随所にちりばめられた
この作品を選んだ。

 主人公は、転校初日の自己紹介で、
「わたしは三浦衣良 イライラの衣良と申せましょう」
と話した少し変わった女子高生。

「きょうはあしたの前日だから………だからこわくてしかたない」
と、まるで世界がきょうでおしまいのような、
深刻な雰囲気をかもし出す。

 前述のナタリーが仕事では国際的な童話作家だったのに対し、
衣良はあらゆる場面で混乱している一女子高生に過ぎない。

することなすことみな危うく、母は泣き、父はため息をつく。
自分でも姉と比較してコンプレックスを抱いている。

 御茶屋峠にとって衣良は、妹の友達だが、衣良のとる突拍子
もない行動に対して、見事なリアクションで心の不安を取り
去ってくれる。

 衣良が夜中のトイレが怖くて、付き添いを頼むと、
ドアの外で「きらきら星」の歌を歌い続けてくれるのだ。

 御茶屋峠の受容性は、パニックで混乱極まった衣良
から、ナイフでほおを斬りつけられても変わらない。
御茶屋峠は、感情が抑えられず人殺しさえしかねないと
訴える衣良に、こう言う。

 「これは仮定だけど そんなときぼくはさっと身をひき
さっと台所まで走りさっとミルクをわかす 
そしてきみにわたす『さあ ミルクを飲んで』『心がなごむよ』
そうするときみはおちついでうなずいて
『またあしたね』と言うだろう ぼくはきみがだい好きだ」
 
 パニックをおこし、自分を傷つけたオンナでも、
すべてを受容し、愛を示してくれるオトコ。
こういう包容力に溢れた人が身近にいたら、と思うのは
何も衣良に限らない。
Hanako世代には御茶屋峠ファンは実に多い。 

 作者は、この作品のラストで、衣良の姉にこんな
問いかけをさせている。
 「男に生まれたほうが生きやすいか 女に生まれた
ほうが生きやすいかと」

 オトコとオンナ。
 今も昔も、それぞれが受容してもらいたがっている。

2005/12/14

Hanako世代シリーズ漫画編(6)

★砂の城(77)

ナタリーとフランシス

読むワイドショーか韓ドラの原点か
――愛があれば年の差なんて――

 強くて潔い女を描いていた20代の作者、一条ゆかりが、
一番嫌いなうじうじしたオンナオンナしたヤツを描いてみるか、
と連載を始めたメロドラマ。それほど、この物語に登場する
女性たちは悩みを抱えて、言いたい気持ちを言い出さずに胸に
秘めて内から壊れたり、感情を爆発させたりする。

 それでもヒロインは、16歳年下の若者から、年の差なんて
まったく関係なく愛され続けるのだ。

 客観的に見ると、不幸をすべて身に背負ったかのような
主人公が周囲のオトコたちにも不幸をどんどん伝播させていく
という、大変、怖いお話だが、オンナの立場から見れば、
オトコはそれでもだめだめオンナを愛し続けるというパターンが
いくつも見受けられる。

 行動できずに悩む女性たちには、これで大丈夫なのだ、
という安心感を与えてくれる読み方もできる。  

 漫画は、フランス・郊外の富豪の一家に、ナタリーという
娘が生まれるところから始まる。その朝、その家の前に置き去りに
されていたのが、フランシスという男の子。ナタリーは、この
身寄りのないフランシスのお嫁さんになることを生まれたときから
夢見て育つ。案の定、2人は長じたとき結婚を反対されて互いに
手を握りあい、見つめ合ったまま海に身を投げるのだ。

 ところが心中は失敗する
(ここで物語が終わってしまっては、漫画にならない)
一人生き残ったナタリーは数年後、フランシスと再会する。
しかし、フランシスは記憶喪失で別の女性との間に妻子
を持ち、2人の再会直後に妻とともに死んでしまう。
ナタリーは残された4歳の男児の名を、勝手にフランシスと変えて
2人で暮らし始める。

 と、ここまでは長い長い前降り。
物語りが、始まるのは実はここからなのだ。
ナタリーは自ら育てている子どもの方の、フランシスにも
惹かれていく。16歳年上の女性は、そのオトコの子が妙齢に
なったとき、果たして愛される存在となりうるのだろうか?

 それが、この作品ではなりうるのだ。何しろ子どもの
フランシスは、4歳にして、ナタリーのために自分の母の思い出を
捨てるほど、精神的に大人である。

ナタリーも、20歳にして両親を亡くしたり、自ら死に損なったり、
愛する人が生きていると思ったら再開直後に目の前で車にひかれたり
するなど、もうこれでもかこれでもか、という人生を送っていて、
その落ち着きぶりといったら40代後半ぐらいのものだ。

 小学校1年生のフランシスが海辺で砂の城を作っている。
作った城が波で壊れるのを見たナタリーが、こう語りかける。 
「皮肉なものね 安全な所ではつくれなくって つくれる所では
波がさらってこわすなんて 人生なんて砂の城のようなものかも
しれないわね つくってもつくってもいつの間にか波がさらって
しまう」

 すると、フランシスはこう受ける。
 「悲しまないで……ぼくがいるよ ぼく……なぐさめてあげる」

これが、23歳のオンナと7歳のオトコの子の会話なのだ。
しかも、「守ってあげられるくらいに大きくなりたい 待っていて
ナタリー ぼく うんと急いで大きくなるよ」と悲壮感漂わせて
誓うのだ。

 とはいえ、そうは急に大きくならない。寄宿学校入学、
ナタリーの渡米など、紆余曲折を経てフランシスが18歳のときに
2人は結ばれる。

 「あなたなしの人生なんて考えられない あなたしか見えない 
あなたしか愛せない あなたのそばでしか生きていたくない」

 どうだろう、フランシスのこの熱情。しかし、その後もナタリー
を不幸が襲い、性格も相まって、ついには精神に異常をきたして
子ども同然となる。

 それでも、フランシスのナタリーへの愛情は変わらない。
2人で、世捨て人のように暮らすのだ。

 容姿性格とも申し分ない18歳のオトコの子が、若くきれいな砂糖菓子
のような同世代のオンナの子より、30代半ばのオンナを選ぶ。

 そして20歳のとき、今度はオンナが先立った後も、思い出を胸に
生涯、愛し続ける。ドラマチックな設定と展開を得意とする作者では
あるものの、ヒロインの不幸ぶりは際だつ。

 記憶喪失、親族、男女ともに初恋の人を愛し続けることなどは、
韓国ドラマによく出てくるパターンだ。同性愛も、精神疾患もある。

ツボを抑えたオトコとオンナの究極の「おとぎ話」だったといえる。